2019-07-01

クラウドファンディング成功の鍵は「共犯者」が握る。ALL YOURSが滋賀県長浜市にやって来た!

近年、急速に広がりを見せている「クラウドファンディング」。知り合いがプロジェクトを立ち上げたり気になるプロジェクトを応援したりすることも、珍しいことではなくなっているかもしれません。

クラウドファンディングとは、インターネットを通して自分がやりたいことを発信して支援を募る仕組みのこと。日本では2011年以降数々のプラットフォームが誕生して以来、2013年から2017年にかけてクラウドファンディングの市場がおよそ10倍に成長しています。

しかし身近になっている一方で、自分のアイデアや自分たちのプロジェクトにクラウドファンディングを使いたい、と興味を持っても、リアルな体験談を聞ける機会はなかなかありません。

自分でもプロジェクトを立ち上げられるのだろうか。どうやって使えばいいのだろう、何から始めるの?

そんな疑問を解決できるイベントが、滋賀県長浜市が開催されました。ゲストは、24ヶ月連続のクラウドファンディングで通算4,000人から約5,800万円分の支援を受けたアパレルブランド「ALL YOURS(オールユアーズ)」の代表・木村昌史さん、そして長浜市内でクラウドファンディングに成功した石井挙之さんと清井崇さんです。

3人が共通して語ったのは、クラウドファンディング成功の鍵が「共犯者」をつくること、つまり支援してくれるお客さんにもプロジェクトに「参加」してもらうこと。では、「共犯者」を増やすには……?

今回はそのイベントの様子をレポートしながら、クラウドファンディング成功のために最も重要なこと、“共犯者”づくりについてお伝えします。

ゲストは「モノづくり」でクラウドファンディングを立ち上げた3名

2019年6月19日水曜日、長浜市で「クラウドファンディングトークイベント オールユアーズ的モノづくり〜なぜクラウドファンディングを使うのか〜」と題したイベントが開催されました。

会場は、長浜市街地の観光地・黒壁スクエアに面している「96CAFE(クロカフェ)」。

イベントを企画したのは、2015年12月に長浜市に移住してきた合同会社MediArtの植田淳平さん。長浜に移住後クラウドファンディングを成功させた経験から、市内に眠るアイデアの種をクラウドファンディングで実現するための補佐に奔走してきました。

2017年からはクラウドファンディングのプラットフォームであるcampfirefaavoのエリアオーナーとして、滋賀県主に湖北地域のアイデアを持っている実行者をフォローして多くのプロジェクトを実現に導いています。

植田さんが今回イベントを企画するきっかけとなったのが、アパレルカテゴリで国内最高額の支援が集めた「ALL YOURS」の木村昌史さんです。

木村さんは、ALL YOURSの洋服を実際に手に取れる試着会とトークイベントのための全国ツアー真っ最中。47都道府県を制覇するその途中で木村さんを長浜市にご招待し、イベントが実現しました。

さらに、長浜市内のゲストも登壇。

1人目が、職人をプロデュースするクリエイティブ集団「仕立屋と職人」のデザイナー・石井挙之さん。

そしてもう1人が、長浜駅近くでクラフトビールを提供している「長濱浪漫ビール」の取締役・清井崇さんです。

アパレル、伝統工芸、そして飲食。同じ「モノづくり」をテーマにしていながら、それぞれ別のジャンル、別のプラットフォームでクラウドファンディングを成功させた3人。長浜市内では珍しいクラウドファンディングに特化した本イベントには、30人以上が参加しました。

プロジェクト達成者が語る、クラウドファンディングで重要なこと

今回の会のメインは、それぞれが自分たちの事業とクラウドファンディングの実体験を語るトーク。リアルな体験談に会場は熱心に耳を傾けていました。

最初に話したのは、イベントの一週間前に初めてのクラウドファンディングに成功したばかりの石井さん。地域おこし協力隊として2017年に長浜市内に引っ越してきて、クリエイティブ集団「仕立屋と職人」でグラフィックデザイナーを担っています。

「仕立屋と職人」とは、石井さんを含む4名のチーム。自分の生活と距離があると思っていた職人の生き方に触れて惚れ込んだことから、職人のファンを増やしたいとの思いで「職人自身をデザインする」活動をスタートしました。技や伝統、そして職人の信念や情熱を彼らの視点で情報発信することで、職人のことを知る間口を広げようとしています。

彼らと最初にタッグを組んだ職人は、福島県郡山市の張り子職人。木型に和紙を重ね貼りしてダルマを形づくる「張り子」の技術を、ダルマを手にする機会のない人にも届けたい。石井さんたちは、張り子の技術を広める新商品の開発に挑みます。

(画像引用元:Readyfor

それが、張り子の技術をいかしたジュエリーブランド「harico」。単に発表するだけではすぐに広まりにくいジュエリーブランドのコアなファンを集めたいとの思いから、Readyforを使って初めてのクラウドファンディングにチャレンジしました。

結果、「和紙ジュエリー harico 大黒屋と仕立屋がダルマを新時代へ!」のプロジェクトは、目標金額300,000円に対して開始3日で100%超え、最終的には達成度228%でゴールし、77名の支援者から総額684,000円が集まったのです。

期間中にテレビやウェブメディアなどの媒体で露出を図るだけでなく、「仕立屋と職人」のメンバーが知人に直接メッセージを送る「シェア祭り」に注力したのだとか。

「僕たちはこのプロジェクトを誰に届けたいのか、4人全員でリストアップしてメッセージを送りました。プロジェクト公開前に送り、さらにスタートしてからまた送る。『あなたに応援をお願いしたい』と思いを伝えたかったので、メッセージに手を加えながら1通1通送りました」

続いては長濱浪漫ビールの取締役、清井崇さん。1996年にオープン以来、店内で醸造された地ビールと滋賀の名物を使ったフードが人気のレストランとして、年間約4万人が訪れる長浜の名物スポットです。

長濱浪漫ビールがクラウドファンディングに挑戦したのは、2017年のこと。ウイスキーの蒸留をスタートしようとしたところボイラーの購入が必要になったため、Makuakeを使ってプロジェクトを立ち上げました。

(画像引用元:Makuake

日本一小さな蒸溜所「長濱蒸溜所」でクラフトウイスキーをつくりたい!」のプロジェクトには、100万円の目標に対して161人の支援者から約344万円が集まって大成功。目標であったウイスキーの醸造を無事にスタートできたそうです。

「クラウドファンディングに挑戦したことで、この取り組みをたくさんの方に知っていただけただけでなく、みなさんが『参加する』意識を持ってくださったんです。リターンで長濱浪漫ビールの食事券をご用意したら、食事券を使うために遠方からお越しくださって。みなさんのおかげで実現した醸造工程をお見せしたら非常に喜んでくださいました」

クラウドファンディングを通じて、単にお金を支援してもらうだけでない関係を築けた手応えがあったと言います。

顔の見える「あの人」に支援してもらう方法を考える

ラストは、ALL YOURSの木村昌史さん。「今を夢中に楽しむ人へ」をコンセプトに掲げるALL YOURSから、水を弾く綿のパーカーやシワがつきにくいジャケットなど、洋服にまつわるストレスを解消するプロダクトを次々と発表しています。今回も実物をたくさん持ってきて、水がしみ込まない様子を実演してくださいました。

ALL YOURSの特徴は、商品を欲しい人を先にクラウドファンディングで集めてからプロダクトの制作に取りかかること。洋服には最小ロットの制約があるため、そのブランドや商品が何人に支持されているかを事前に明らかにすることが当初の狙いだったものの、クラウドファンディングを続けていくうちに「ファンづくり」につながると実感したそうです。

(画像引用元:campfire

campfireを使ったプロジェクトが注目を集め、24ヶ月連続のクラウドファンディングに挑戦。累計約4,000人の支援者から約5,800万円が集まり、数多くのプロダクトを世に出すことに成功しました。

「僕たちは支援してくれる人を『共犯者』と呼んでいます。どうやってプロジェクトに参加してもらい、参加した人ほど楽しい状態をどう生み出すのか。支援者だけでなく株主もメーカーも、みんな共犯者。関わってくれている人たちがブランドをつくっているんです」

クラウドファンディングに挑戦しようとしている人から相談を受けるときも、木村さんが伝えるのは「共犯者」の重要性だと言います。

「クラウドファンディングに成功するステップがあって、僕はいつも3つの質問をするんです。

1つ目が、『このプロジェクトは何人が支援してくれるものですか?』。その答えが返ってきたら、2つ目は『その人数分の名前を挙げてください』と言います。つまり誰に支援してもらいたいのか、具体名を出して明確にするんです。最後に、『その人に贈りたいリターンは何ですか?』。リターンは、一人のためにつくるプレゼントですから。

クラウドファンディングって、初めは特に自分のことを知っている人にしか伝わりません。不特定多数の人じゃなくて目の前の一人を大切にすることで、初めてその周りの人にも伝わっていくものだと思います」

質疑応答で締めくくったトークイベント終了後には、木村さんに直接サイズを合わせてもらう試着会を実施。初めて身に着けるALL YOURSの洋服の機能性と着心地の良さに、驚きの声が上がっていました。

(画像引用元:ALL YOURS

各種商品はこちらから購入できます。

「インターネットで不特定多数の人から支援を集める」イメージの強いクラウドファンディングのプロジェクトも、企画ページは「心を込めて届けたい手紙」であり、リターンは「あの人に贈りたいプレゼント」。

今回のイベントを通じて自分のプロジェクトを成功できるイメージを持ったあの場の誰かが、クラウドファンディングを立ち上げてやりたいことを実現する日も遠くないかもしれない。そんなわくわくする予感に満ちた夜になりました。

文・写真/菊池百合子

関連記事